Graceful epicurean 美食の品格
            presented by 美容食スペシャリスト 飯野耀子

「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人間であるかを言いあててみせよう」とは、『美味礼賛』の著者ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランの言葉。食べ方にはその人の生き方が現れるから、優れた人格と品格を兼ね備えた「優雅なエピキュリアン」を目指したい。そのために必要なエッセンスを食のオーソリティに学びませんか? 第16回目は、フランス、ニースの1ツ星レストラン「KEISUKE MATSUSHIMA」のオーナーシェフ松嶋啓介氏がプロデュース、今年6月にグランドオープンした原宿『Restaurant-I(レストラン アイ)』を訪問。東京キュイジーヌを世界に向けて発信する想いを井上総支配人に伺ってきました。

Presented by
美容食スペシャリスト
飯野 耀子
Iino Youko
東京キュイジーヌのオーソリティ
Restaurant-I 総支配人 井上 翔輝(しょうき)氏

松嶋啓介氏が2006年『ミシュラン』1ツ星を獲得した時期に現地で働いた経験を持つ、氏の右腕的な存在のひとり。松嶋氏の熱烈なアプローチにより、「Restaurant-I」総支配人に就任した。松嶋氏と同じく福岡県出身で、国内店舗のほかNY「バスタパスタ」、ニース「KEISUKE MATSUSHIMA」で磨かれたレストランサービスにファンが多い。実は俳優としての一面もあり、日本の他、NYでは自身の草案を元に“独り劇”をプロデュース。舞台で活躍した経験を持つ。

井上 翔輝氏

二人の I


―フランス、ニースの1ツ星レストラン「KEISUKE MATSUSHIMA」のオーナーシェフ松嶋啓介氏(★1)プロデュースによるレストランとして、日本はもちろん、世界から熱いまなざしが注がれていますね。松嶋氏がパートナーに選んだのは、エグゼクティブシェフ神保佳永氏(★2)ですが、松嶋さんはなぜ神保氏とパートナーシップを組まれたんですか?

ふたりは辻調理専門学校の同級生で、料理の世界を志したときから旧知の仲なんですよ。松嶋は渋谷「ヴァンセーヌ」を経て、神保は銀座「ベルフランス」を経て、共に20歳で渡仏。フランスでの修業時代の厳しさや楽しさをわかちあったこともあって、とても強い絆で結ばれているんです。
―でも個性の強いお二人なのでは?
松嶋の料理の特徴は「軽やか」ということ。重くなりがちな赤ワイン煮込みも軽くて優しい味がするんです。ニースという土地柄(★3)、バターではなくオリーブオイルを多用したり、新鮮な魚介や野菜などを活かしたりと、イタリア料理的な要素を持っているといえるでしょう。そして神保は前会社ではイタリアンの総料理長をしていました。最初に「Restaurant-I」オープンのお話が松嶋に来たときに「神保しかいないだろう」と言ってパートナーに選んだのは、料理に対する解釈のほか、食に対するこだわりや情熱、心意気に共通項を見つけたということですね。
―なるほど。お互いの個性を解っているからこそのコラボレーションなんですね。
実は、「Restaurant-I」の料理を語る上で欠かせない人物がもうひとりいるんですよ。
―?
もう一人のシェフ、武田健志です。「Restaurant-I」の料理は、松嶋、神保、武田の3人でクリエイトしているんです。
―あ~そうなんですね。

四人の I


―ところで船頭が3人というのはいくらお互いを尊敬していても難しい場面もあるのでは?(笑)
和食と違い、フレンチにおけるシェフは指揮者だと思うんですよ。味付けや盛りつけ、アイデアを出し合い、武田がクリエイトしていくのが現在の「Restaurant-I」のかたちです。三人が同じキャンバスに絵を描いているイメージ、といえば伝わりますでしょうか。
―なるほど。そして井上総支配人が舵取りをされているのですね(笑)
はい(笑)。だから、「Restaurant-I」は、四人のI(Identity=個性)が表現の源となっている店といっていいかもしれませんね。
―HPなどでもご紹介されていますが、「Restaurant-I」のIにはさまざまな意味が込められていますね。
一本筋を通したレストランにしたいという想いを「International(国際的な感覚をもつ)」「Identity(日本人・伝統)」「Information (新しい情報発信をしていく)」という三つのIに込めています。
―“東京キュイジーヌ”を掲げる理由もIにある?
松嶋、神保、武田、三人の個性と江戸野菜(★4)・伝統野菜をはじめ、なるべく東京・関東の食材を使っていこうと考えているんです。昔ながらに東京で食べられていたものが失われていくのは、アイデンティティの喪失と等しい。DNAの中にあるアイデンティティを大事にしていきたいという思いから、「地産地消・旬産旬消」を出来る限り実践し、農家や生産者の皆さんと一緒に取り組んで、東京らしさを追求した料理を提供したいと考えています。そしてこの想いとコンセプトは日本だけじゃなく、世界に向けて発信していきたいと考えています。
―素敵ですね。「志」というものをとても感じます。
「Restaurant-I」のスペシャリテ「ビーフシチュー」は、原宿・東郷の杜ゆかりのにちなんで誕生したもの。厳選された上質の牛タンを3日間煮込んで仕上げている。見目麗しい「関東野菜とフォアグラのプレッセ“MISO”のアクセント」は、野菜の力強い味とフォアグラが、味噌をアクセントにしたソースで美しい調和を奏でる。多数ラインナップされた国産銘柄のワインと共に楽しみたい。

広がる“ I ”のストーリー


―Iさんはシェフもスタッフの方もみなさんお若いですし、今後の展開がものすごく楽しみですね。
ありがとうございます。「Restaurant-I」のオープンにあたってはさまざまな方のサポートを受けておりますので、いつもご期待以上のものを発信していきたいと考えています。飯野さん、例えばこの壁を伝っている一本の線なんですけどね。
―あ~、今まで気がついていませんでしたが、はい。
この線の色は消炭色(けしずみいろ)といって、東京の伝統色。しかもこの一本の線はエントランスからウエイティングバー、ダイニングから厨房までずっと巡らされているんですよ。これはお客様とキュイジニエ、サービスのスタッフがひとつに繋がっているというコンセプトのもとに生まれたデザインです。スペシャリテの「ビーフシチュー」も、フランス料理ではないですが、東郷神社ゆかりの東郷平八郎氏(★5)がイギリス留学時に感動した食べ物というエピソードから生まれたメニューなんですが、そういったご縁の中から生まれたIもあるんですよ。
―なるほど! そういえばみなさんの制服はビームスさんですよね。これも何か意味があるとか?
はい、ビームス様に松嶋が猛アタックして実現しました。
―そういうの、凄くいいですね。ところでこの壁に飾られている絵は子供の絵ですか?
はい、取締役の一人である前刀禎明氏が代表を務める「リアルディア アーツ」(★6)のワークショップから生まれた、三原色だけを使った子供たちの絵なんですよ。壁以外にもメニューのトップページにも使わせてもらっています。
―え~、そうだったんですか。子供の絵とは思えないすばらしい感性の絵ですね。お料理以外にもこんなにいろんな魅力あふれるお店だとは。今回お話をうかがえて本当に良かったです。
店内に巡らされた一本の線だけでなく、家具の材質やテーブルの高さ、椅子の大きさなど細部に至るまでコンセプチュアルな作りが成されている。
みずみずしい感性に驚かされる子どもたちの絵。壁面を彩るほか、メニューブックにも彩りを添える。
ありがとうございます。実はもう一点ぜひみなさまに楽しんでいただきたいのがこのロケーションなんですよ。最寄りの駅からは若干、アクセスがよくないのですが、私どもではこのお店を“都会の中に森がある”というコンセプトの元に作りました。都会にいながら喧噪からちょっと距離を置いて、緑を感じながらゆっくりとお食事を楽しんでいただけると思うので、ぜひそういった面も楽しんでいただきたいと思っています。松嶋が良く云っている「Restaurant-I」には、“愛(=I)されるお店になりたい”の意味もこめられていますから。
―(笑)。既に多くの方に愛されていると思いますが、より多くの方に愛されて貰いたいお店ですね。本日はとても楽しいお話をありがとうございました。近々、また遊びに伺います。
お待ちしております。
今回の品格セオリー
本場フランスで星を持つシェフである松嶋氏。何か新しいことを始めるということはその味を、もしくはそれ以上の何かを求められることが前提での挑戦だったのではないでしょうか? 事実、ニースと同じものを求めて、厳しい感想を残す方もあるとのこと。確かにニースとは違った松嶋啓介がここにはいるのかもしれません。しかしパートナーに選んだ盟友二人、神保氏と井上氏。そして神保氏の盟友である武田氏と、彼ら4人が集まったことで想定外の味を見せてもらえる、これはある種の“チャンス”なのではないかと。私はそんなチャンスを楽しむことにレストランIに出会った意味を感じた次第です。
Food Pedia

★1  1977年福岡県生まれ。20歳で渡仏し、フランス各地で修業を重ねたのち、25歳でニースにフレンチレストラン「Kei's Passion」をオープン。南仏の素材を生かした斬新な料理が評判を呼び、2006年に28歳でミシュラン1ツ星を獲得。同年、店名を「KEISUKE MATSUSHIMA」に改め、拡大オープン。2008年も3年連続星を維持している。

★2  世界的なリゾート地として知られるフランス・ニース。小アジアのニカイア人の交易地として発展し、トリノ条約によりフランスに併合された1860年までイタリアのサルディニア王国下の町として繁栄したことから、料理もイタリア料理的な要素を多く残しているのが特徴。新鮮な魚介類や野菜の味わいをいかした料理が多く、代表的なものにオリーブやアンチョビ、トマト、さやいんげんなどを使った“ニース風サラダ”がある。

★3  銀座「ベルフランス」を経て20歳で渡仏。星付レストランで修業を重ね、2001年帰国。株式会社ひらまつに入社し、丸の内「サンスエサブール」のオープニングスタッフとして活躍後、浦安「ホテルエミオン東京ベイ」副料理人、洋食総料理長を経て、2008年「Restaurant-I」を松嶋氏と立ち上げ、エグゼクティブシェフに就任した。

★4  江戸時代に江戸やその近郊の野菜づくりがさかんな地域で改良された野菜の品種全体を指す。品川かぶ、馬込半白節成胡瓜、江戸菜などがあり、「Restaurant-I」では、エグゼクティブシェフ 神保氏が地元農家や生産者と一緒に取り組んで種の保存に貢献している。

★5  東郷神社にゆかりの深い大日本帝国海軍軍人。イギリス留学時代に食べたビーフシチューの味が忘れられず、部下に「ビーフシチューをつくれ」と命じたところ、ビーフシチューなど知らない料理長が、デミグラスソースの代わりに醤油と砂糖を用いてつくりあげたのが後の「肉じゃが」というエピソードが残っている。
『ル・アール東郷』
www.lehall-togo.jp/

★6  五感を刺激する独自のアプローチにより、一人ひとりの潜在的な可能性を引き出し、感性、想像力、表現力を育むプロジェクト。絵画や音楽、ダンスなど、形式にとらわれない柔軟なプログラムが開催されている。
www.realdear.com

A Taste of Elegance

「Restaurant-I」
(レストラン・アイ)

「地産地消・旬産旬消」を掲げ、江戸野菜やTOKYO-X、東京軍鶏など東京・関東のこだわりの食材を厳選。フランス料理に和のエッセンスを加え、“東京らしさ”を追求した四季折々の一皿を供するレストランです。天井から足元まで広がる窓の外には東郷の森が広がり、清新の気に充たされます。

TEL03-5772-2091
渋谷区神宮前1-4-20 パークコート神宮前1F
ランチ  11:30~15:00 (LO 13:30)
ディナー 18:00~22:00 (LO 21:00)
定休日/月曜
アクセス/JR山手線「原宿」駅より徒歩8分
営団地下鉄千代田線・副都心線「明治神宮前」駅より徒歩6分
平均予算/昼¥3,500~、夜¥6,500~
www.restaurant-i.jp

飯野耀子プロフィール
AllAbout食育ガイド/ myfood.jpチーフエディター。健康管理士、薬膳料理指導員、食育指導士など多数の資格をもち、西洋医学、東洋医学、植物療法の観点から食の効能についての情報を組み合わせ、商品開発、店舗展開に多数参画。2005年よりAll About食育ガイドとして活動。発芽玄米普及大使も務め、FANCL発芽玄米粥の監修も務める。最新の著書に『夜トマトダイエット』(ぶんか社他、台湾版、中国版も好評発売中)『合格への食卓』(扶桑社)がある。
公式ホームページ http://www.tablebongout.com/

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