Graceful epicurean 美食の品格
            presented by 美容食スペシャリスト 飯野耀子

「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人間であるかを言いあててみせよう」とは、『美味礼賛』の著者ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランの言葉。食べ方にはその人の生き方が現れるから、優れた人格と品格を兼ね備えた「優雅なエピキュリアン」を目指したい。そのために必要なエッセンスを食のオーソリティに学びませんか? 第13回目は、西麻布にある知る人ぞ知る大人の隠れ家、月光庵オーナー・渡辺政子さんが登場。数多くの経営者に愛される「おもてなし」の真髄を探ります。

Presented by
美容食スペシャリスト
飯野 耀子
Iino Youko
おもてなしのオーソリティ
月光庵 オーナー 渡辺政子さん

東京都出身。劇団四季で活躍後、オーナーとして店を経営。地元西麻布でバー「フラスコ」を立ち上げた後、グラフィックデザイナーのプレスマネジメントを経て懐石料理「ゆず亭」を開く。現在は「月光庵」のオーナーとして活躍。経営者やシェフ、料理研究家に慕われている。

渡辺政子さん

舞台女優からバーオーナーへの転身


―こんにちは。いつも本当にお世話になってしまってありがとうございます。改めて今日はお話を伺う機会を得てとても嬉しいです。まずは渡辺さんの軌跡について伺いたいのですが、元々女優さんだと伺いましたが?
昔、劇団四季にいたことがありまして。
―凄い! 劇団四季ですか!!!!! いつも立ち姿のきれいな方だなぁというのは思っていたのですが、なるほど。
ありがとうございます。でも昔の話ですよ。
―(笑)そこから飲食店経営に転身されたんですか?
20代の終わりくらいに西麻布で「フラスコ」というバーを始めました。クリエイターがたくさん集まるお店でね。
―そうなんですねぇ。クリエイターの集まるバーかぁ……
その頃にいらしていた方は、皆さん今はもうすっかり有名になられて(★1
―素敵ですね。そこから和食のお店にはどのような……?
「フラスコ」を閉めて3年ほどグラフィックデザイナーのプレスマネージメントを担当していたの。
―えっ?! また異業種ですね(笑)はい。
それでプレスのお仕事を辞めたあとに「ゆず亭」という懐石料理のお店を西麻布で開いたんです。和食がとても好きだったので……和食の究極形は懐石料理でしょう? 店を開くにあたって、かなり勉強しました。
―ふむふむ。
けれども“究極”を追っているうちに「日常のご飯が大切なのでは?」と思うようになったんです。美味しくて大人が納得する“普段着ご飯”をいただけるお店って、実は少ない。それで「ゆず亭」を人に譲って「月光庵」を開いたのです。
―そういう経緯があったお店だったんですねぇ。いつも美味しいだけで全然知らなかった(笑)大人が納得する普段着御飯、納得です。


「居心地のよい空間で四季折々のもてなしを大切にしたい」と語るオーナーの渡辺さん。店内はカウンター席とソファ席、4名までのテーブル個室と6名までの和室で構成されている。

経営者に大事にされる店


―ところで月光庵の名前の由来を聞かせていただけますか?
実は奥のお部屋に炉を切ってありまして。
―えっ?あのテレビのお部屋ですか?
そう。コミュニケーションの場としての茶の心に寄り添いたくて、茶室のように「庵」としたのです。それから自然を愛でる意味において、東洋で一番美しいとされている“月”をイメージして「月光庵」と名付けました。
―素敵♪ 東洋といえばこちらのお店のコンセプトにもそういったことは入れられているんですか?
このお店は高木基宏さんにデザインしていただきました。寛ぐ空間にして欲しいという希望をお伝えしたら、ジャパニーズシノワズリースタイル(★2)に仕上げてくださったんです。
―ジャパニーズシノワズリー。それでところどころ、チャイナ的な室礼が施してあるんですね。因みにあちらの絵?書はどなたのですか?私、いつもいいなぁと思って拝見していたんです。
オープンの時、浅葉克己さんにいただいた作品です。道教の文字なんですって。
―道教の文字! へぇ、面白い。何か意味はあるんですか?
意味はあるのですけれど、教えていただけなかったわ。
―月光庵、本当に奥が深いお店ですね。奥が深いと言えば私をこちらに紹介してくれた人が最初にお店に連れてきてくれる際に「今からいくお店は僕が社会人になるときにある企業の社長さんが『男は仕事をするようになったらこういう店をひとつは知っておけ』っていって連れていってくれたお店なんだよ。」というお話があったんです。その方もそうですし、日ごろお店に伺った際にチラホラ、雑誌や新聞などでお見受けする経営者の方がいらっしゃったりして、非常に経営者の方が多くいらっしゃっているお店だなぁという印象があるのですが・・・?


浅葉克己氏から贈られた道教の文字を描いた作品や香港のマンダリンオリエンタルホテルにも置かれているランプなど、センスの良い品々が店内を彩る。

少し前はお店に来られる方の平均年齢が50歳くらい。皆さんお忙しい方たちだからクールダウンにちょっと寄って行かれる感じかしら。ご紹介でお越しになる方が多いので、自ずと経営者の方が多いのかもしれません。若い方は特にそういった方が多いですね。料理研究家やシェフの皆さんにも思いのほかお越しいただいています。

―シェフもある意味、経営者という面もありますからやはり同じ感じですね。クールダウンかぁ・・・でも割とお仕事の席としていらっしゃってる感じの方たちも多いですよね?

そうですね。寛いでいただく場として始めたのが、図らずもご接待に使っていただくことも多くて。

―渡辺さんの目からみてその理由って何だと思われますか?

何でしょう。皆さん、ホッとされたいんじゃないかしら。美味しいものを食べると気持ちがリラックスするでしょう? そうするとお仕事のお話もうまくいくのかもしれませんね。

―なるほどぉ。いい意味での隙を作れる感じなのかなぁ? 確かに月光庵はとにかく居心地がいいんですよねぇ。そういうところでお仕事の話をすると+αのものがたくさん生まれるのかも。

私共は回転を考えていないせいもあるのですが(笑)、皆さん、結構長時間居てくださるの。1軒で全部まかなえるという理由かもしれませんが、最長で8時間楽しんでいかれたお客様もいらっしゃるんですよ。

―8時間!? それってもう完全に「家のリビング」ですね(笑)

“おうち御飯”感覚で週に2回、3回とお越しになる方もいらっしゃるから、第二の我が家のように私共を大事にしてくださってる方も多いのかもしれません。

食材へのこだわり、季節へのこだわり


―ところで私の中では「月光庵」といえば卵かけご飯(笑)ブログにも書いちゃいました。
ありがとうございます。でも卵がいいだけですから。
―いえいえ、あの卵は素晴らしい卵ですよね。オムレツも他のお料理に使われている卵もみんなその卵なんだそうですね。
お友達から最初頂いて、あまりに美味しいので取り寄せることにしたんです。甲賀の卵(★3)。健康な鶏から生まれた美味しい卵、食べたいでしょう?
―はい!
実は、仕入れてしばらく経った頃、卵の味が変わったことがあったのね。それで料理長が卵屋さんとお話したら、ちょうど飼料が高騰した時で一時的に餌を変えたことが解って。今はまた元の餌に戻ったので味も戻ったのですけど。餌一つで味が変わっちゃうくらい食べ物って繊細なものだから、いいものをお出ししたいっていつも思っているんです。
―確かに。そういうお店側の気遣いも月光庵がほっとする空間になっている理由かもしれませんね。他には何かお勧めはありますか?
自分が外で食事をしたり、旅行したりする際に、いつも「何かいいものはないしら」と意識はしています。今年は、ある方からものすごく美味しいキュウリを教えていただいたので、夏はそのきゅうりを楽しんでいただきたいと思っています。それから毎年冬場にお出ししている生牡蠣は、ぜひ食べていただきたいです。
―いただいたことあります。あれ、美味しいですよねぇ。
ブナの森をちゃんと育てているから、海水がとてもきれいな奥松島の入江(★4)で穫れた牡蠣なの。通常、牡蠣は一度殺菌するものだけど、奥松島の牡蠣は殺菌せず、海の水のまま食べられるのよ。保健所の許可もちゃんと下りていてね。
―なるほどぉ。今年の冬はそれを意識して食べてみます。ところで割とみなさん、わがままを聞いていただいているような気がしますが(笑)、お料理についてのわがままなんかは予約の際にお願いしたら聞いていただける感じですか?
急ですと忙しい時はなかなかお応え出来ないこともあるのですが(笑)、予約の際に云っていただければ大丈夫です。特にベジタリアンの方やアレルギーの方など、大抵のことにはお応えできますので遠慮なくおっしゃってください。一口にベジタリアンっていってもいろいろとあるでしょう?
―そうですね。
それから嫌いなものもね。嫌なものを食べるって嫌でしょう?
―いやです(笑)!
お客様の希望をお聞かせいただくことも勉強になりますから。稀にヒット商品が生まれることもあるんですよ。
―どれですか?
生麩(★5)のグラタン。通常は牛乳などを使っているのですが、元々はベジタリアンのお客様用に豆乳でお作りしたものなのね。
―それも私、大好きです。その時々でお麩の種類が変わったり、組み合わせの野菜が変わったり一年中、楽しめますよね。そういえば月光庵では旬ということも大事にされているとおっしゃっていましたが?
こだわっていますね。旬はその食材が一番美味しい時だし、季節を感じていただけるでしょう? おかげさまで、季節の定番を毎年楽しみにしてくださる常連のお客様もいらっしゃいます。
―ますます月光庵に足を運んでしまいそうです。本日はありがとうございました。
ありがとうございます。




築地で働く人や知人などの目利きに厳選してもらった素材を使い、シェフの舟越氏が腕を奮う。常連客が必ずオーダーするという定番の卵かけごはんやタラコ豆腐、メンチカツ、初夏ならではのかつおのサラダなど、メニューは多彩。

おしながきは手書きで和紙にしたためて。季節に応じてメニューは変わる。
料理にあわせてワインや焼酎、シャンパンを用意。写真は渡辺さんもお気に入り、最も小さく最も偉大なシャンパンメゾンと呼ばれる通好みの「ゴッセ」。
今回の品格セオリー
「男が社会に出たらこういう店を知っておけ!」。そう父が息子に、上司が部下に代々受け継いでいくお店というのが昔からあるけれど、これからは女性にもそういった「継承」が必要なのではないかと思う。ただ男性と違い、女性には、まだまだ先例を引き渡してくれる先人というのが少ない。そんな中、渡辺さんという“受け継がれ続けてきた存在”に自ら出会いにいくことは多くの女性に「一人前の大人になれる場」が与えられる事になるのではないでしょうか? 私にとって月光庵はそんな大人への背伸びを確かなところへと引き上げてくれる、そんな空間でありつづけています。
Food Pedia

★1  渡辺さんは本文中にも登場する広告・タイポグラフィ制作の第一人者・浅葉克己氏をはじめクリエイターとの交流が深く、日本を代表するアーティストもたびたび月光庵を訪れる。

★2  シノワズリーはフランス語で「中国趣味」を意味する。中国風模様の美術や装飾品様式を取り入れたスタイルを指し、18世紀、ヨーロッパの上流貴族の間で流行した。当時は華美な印象を保っていたが、現代的なシノワズリーは、西洋的インテリアの中にスパイスとして中国風模様の美術品や装飾品を取り入れるモダンカジュアル的な要素が大きい。月光庵の「ジャパニーズシノワズリー」は、中国風模様の美術品や装飾品と和のインテリアを融合させたスタイル。

★3  滋賀県甲賀市。狸の焼物で有名な信楽焼の里と忍者で有名な甲賀忍者の里で有名。澄んだ空気と緑豊かな自然に恵まれた環境を利用して、こだわりの卵を生産する養鶏業者がいる。

★4  日本三景で有名な宮城県・松島から車で約15分。牡蠣の養殖に適しているとされるリアス式の中でも、より牡蠣にとって最適な環境があることから、牡蠣の養殖がさかん。

★5  生麩(なまふ)とは、小麦粉から作られるタンパク質のこと。小麦粉を練り、デンプンが抜けた状態の「グルテン」を蒸して作られる。

A Taste of Elegance

『月光庵』

月光庵

厳選した素材と旬の味わいを楽しめる、大人のためのダイニングバー。喧騒を避けた都会の片隅でゆったりとしたひとときを過ごせます。旬を大切にしたメニューが通常40種。ポテトサラダやトマトのカリカリじゃこサラダ、オムライスなど、大人が満足する“普段着ごはん”が数多く揃っています。

  • TEL 03-5411-2906
  • 東京都港区西麻布3-21-14
    覚張ビル1階
  • 営業時間/月~木、土18:00~翌1:00(LO24:45)
    金18:00~翌2:00(LO24:45)
  • 定休日/日祝
  • アクセス/日比谷線、大江戸線六本木駅より徒歩7分
  • 平均予算/¥7,000~
  • http://www.gekkouan.com/
飯野耀子プロフィール
AllAbout食育ガイド/ myfood.jpチーフエディター。健康管理士、薬膳料理指導員、食育指導士など多数の資格をもち、西洋医学、東洋医学、植物療法の観点から食の効能についての情報を組み合わせ、商品開発、店舗展開に多数参画。2005年よりAll About食育ガイドとして活動。発芽玄米普及大使も務め、FANCL発芽玄米粥の監修も務める。最新の著書に『夜トマトダイエット』(ぶんか社)『合格への食卓』(扶桑社)がある。
公式ホームページ http://www.tablebongout.com/
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